補助金の数値計画|付加価値額と労働生産性の計算式
- ものづくり補助金締切済み(次回未定)2026-04-03 〜 2026-05-08
結論
- 頻出する指標は「付加価値額」「給与支給総額」「労働生産性」の3つ。
- 付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費。給与支給総額は役員報酬を除く従業員への給与・賞与の合計。労働生産性は付加価値額を従業員数(または労働投入時間)で割って算出する。
- 年率平均の伸び率は単純平均ではなく複利(CAGR)で計算するのが基本。
- 数値計画は「表を作って終わり」ではなく、事業計画書本文の記述・根拠資料と数字が矛盾しないかを個別に検算する工程まで含めて完成する。
付加価値額の計算式
付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
この3項目は損益計算書から次のように拾う。
| 項目 | 決算書上の場所 | 実務での注意点 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 損益計算書の「営業利益」 | 経常利益・当期純利益と混同しない。営業外収益・費用や特別損益は含めない |
| 人件費 | 販管費・製造原価の給与手当・法定福利費・福利厚生費等の合計 | 製造業は製造原価報告書側の労務費も合算対象になる場合がある |
| 減価償却費 | 販管費・製造原価の減価償却費(製造原価報告書にも計上される場合は合算) | 特別償却・一括償却資産の扱いは制度の記入要領を確認する |
計算例
直近期が「営業利益320万円、人件費1,450万円、減価償却費180万円」なら、付加価値額=320+1,450+180=1,950万円。
別のケースとして、赤字期(営業利益▲150万円、人件費1,200万円、減価償却費220万円)でも、付加価値額=▲150+1,200+220=1,270万円となる。人件費と減価償却費の絶対値が大きい会社ほど、営業利益が赤字でも付加価値額はプラスで残りやすいという特徴がある。
ここで落ちやすいポイント
- 決算書の「人件費」欄をそのまま使い、役員報酬や退職金を二重に含めてしまう
- 製造原価報告書がある会社で、労務費を数え忘れて過小に計上する
- 減価償却費に固定資産除却損など特別損益系の項目を混ぜてしまう
- 前期・当期で決算書の科目表示が変わっていることに気づかず、拾う場所を誤る
これらはいずれも「決算書の科目名だけを見て機械的に転記する」ことで起きる。転記する前に、各金額がどの取引の集計なのか、担当の税理士・会計事務所に一度確認しておくと手戻りが少ない。
給与支給総額の考え方
役員を除く全従業員に支払う給与・手当・賞与等の合計額。決算書の人件費と異なり役員報酬・法定福利費を含まない点に注意する。
給与支給総額と人件費は名前が似ているため混同しやすいが、対象範囲が異なる。
| 項目 | 役員報酬 | 法定福利費 | 賞与 | 諸手当 |
|---|---|---|---|---|
| 人件費(付加価値額の算出用) | 含む | 含む | 含む | 含む |
| 給与支給総額 | 含まない | 含まない | 含む | 含む |
賃金台帳や給与明細の集計値を使う場合は、この表の「含まない」列を除外できているかを必ず確認する。特にパート・アルバイトの給与は雇用契約の形態にかかわらず基本的に含めるため、正社員分だけを集計して過小申告にならないよう注意する。
労働生産性の計算式
労働生産性=付加価値額÷従業員数(一人当たり)、または付加価値額÷(従業員数×年間所定労働時間)(一時間当たり)。
上記の付加価値額1,950万円・従業員5名の例では、1,950万円÷5名=390万円/人。
一時間当たりで計算する場合、年間所定労働時間を2,000時間とすると、1,950万円÷(5名×2,000時間)=1,950円/時間となる。
従業員数のカウントで迷ったときの基準
| ケース | 数え方の基準 |
|---|---|
| 正社員 | 1人=1人としてカウント |
| パート・アルバイト | 制度の指定に従い、実人数または所定労働時間で按分した人数(例:週20時間勤務なら0.5人相当)のいずれかで計算 |
| 産休・育休中の社員 | 在籍している限り原則カウントに含める(制度の様式指定を優先) |
| 期中入退社 | 期末時点の人数を使うか、期中平均人数を使うか、様式の指定を確認する |
この基準は制度・様式によって細部が異なるため、公募要領や記入要領の該当ページを必ず確認したうえで、計画期間を通じて同じ数え方を貫くことが重要になる。年によって数え方が変わると、伸び率の計算が歪む。
3〜5年の数値計画表を作る手順
- 直近期の付加価値額・給与支給総額・従業員数を算出し「基準年」とする
- 補助事業による効果(生産能力拡大・受注増等)を売上高に反映させる
- 売上高の変化から営業利益・人件費(賃上げ分を含む)を見積もる
- 各年の付加価値額・給与支給総額・労働生産性を算出し、年率平均の伸び率を確認する
- 年率平均が制度の要件を満たしているか検算する
手順ごとの実務メモ
- 手順1(基準年の確定):誰が行うか=経理担当者または顧問税理士。直近の確定申告書・決算書一式をもとに、上の表の場所から数字を拾う。決算期変更があった直後の期は、月数の違いで数字が歪むため注意する。
- 手順2(売上への反映):誰が行うか=事業担当者。新設備の生産能力や想定稼働率、既存の受注実績・見積もりベースの引き合いなど、社内にある一次情報から積み上げる。「何となく前年比110%」のような根拠のない伸び率は書かない。
- 手順3(コスト見積もり):誰が行うか=経理担当者+事業担当者。変動費率が大きく変わらない前提であれば、売上高の伸び率をもとに営業利益を按分できる。賃上げ計画がある場合は、人件費の見積もりに賃上げ分を先に上乗せしてから営業利益を再計算する順序を守る。
- 手順4(各年の算出):手順1〜3で出した数字を、付加価値額・給与支給総額・労働生産性の計算式にそのまま当てはめる。
- 手順5(検算):制度の要件(年率平均◯%以上など)を満たしているかを、複利計算で必ず検算する。単純平均で計算して要件を満たしているように見えても、複利では未達ということがある。
数値計画表のテンプレート例(金額はイメージ、単位:万円)
| 項目 | 基準年 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 年率平均 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | ●● | ●● | ●● | ●● | - |
| 営業利益 | ●● | ●● | ●● | ●● | - |
| 人件費 | ●● | ●● | ●● | ●● | - |
| 減価償却費 | ●● | ●● | ●● | ●● | - |
| 付加価値額 | ●● | ●● | ●● | ●● | ◯% |
| 給与支給総額 | ●● | ●● | ●● | ●● | ◯% |
| 従業員数 | ●名 | ●名 | ●名 | ●名 | - |
| 労働生産性 | ●● | ●● | ●● | ●● | ◯% |
事業計画書に載せる際は、この表と本文の記述(「◯◯によって受注が増える」等)が対応しているかをセットで確認する。表だけ独立して作ると、本文の根拠と数字がかみ合わなくなりやすい。
悪い例→良い例
悪い例:「付加価値額は毎年増加する計画である。」
良い例:基準年の付加価値額(決算書から算出した実額)を起点に、1年目・2年目・3年目それぞれの計画値と対前年伸び率を数値で書き、最終年に制度が求める年率平均(複利計算)へ到達する根拠まで示す。基準年・各年の数字はすべて自社の決算書と積み上げた売上計画から拾った実額を使い、伸び率も単純平均ではなく複利で算出したものを記載する。
年率平均の求め方(複利計算)
計算式は「(計画最終年の値÷基準年の値)の(1/年数)乗-1」。基準年1,950万円が3年後に2,145万円になる場合、(2145/1950)^(1/3)-1≈3.2%。
単純平均と複利で結果が変わる例
仮に基準年100、1年目110、2年目115、3年目130という数値計画があるとする。
- 単純平均:各年の対前年伸び率(+10%、+4.5%、+13%)を単純に平均すると約+9.2%
- 複利(CAGR):(130/100)^(1/3)-1≈9.1%
このケースでは大きな差にはならないが、年によって伸び率のばらつきが大きい計画では、単純平均と複利の差が数ポイント開くことがある。制度が「年率平均」の算出方法を複利で指定している場合、単純平均で計算した数値を提出すると、審査時に整合性を問われる可能性がある。どちらの方法を使うべきかは自己判断せず、必ず該当制度の公募要領・記入要領の指定を確認する。
提出前のチェックリスト
- 付加価値額の3要素(営業利益・人件費・減価償却費)を決算書のどこから拾ったか、根拠のページ番号を控えたか
- 給与支給総額に役員報酬・法定福利費を含めていないか
- 従業員数のカウント基準を計画期間中で統一しているか
- 年率平均を複利(CAGR)で計算しているか(単純平均との混同がないか)
- 数値計画表の売上高の伸びが、事業計画書本文の受注・生産能力の記述と対応しているか
- 賃上げ計画がある場合、人件費の見積もりに反映してから営業利益を再計算しているか
- 決算期変更や特殊要因(コロナ影響、災害等)があった期を基準年にしていないか、していれば注記しているか
数値計画は事業計画書内の記述と整合させる必要があり、特にものづくり補助金では賃上げ要件の判定に直結するため、根拠となる売上・受注増加の記述と矛盾がないか必ず確認する。
業種によって数値の出方が変わる点
付加価値額の3要素(営業利益・人件費・減価償却費)は、業種によって構成比が大きく異なる。設備投資型の製造業は減価償却費の比率が高くなりやすく、人材を多く抱えるサービス業・IT業は人件費の比率が高くなりやすい。同じ売上高・同じ営業利益であっても、減価償却費の多寡だけで付加価値額の絶対額が変わるため、「同業他社と比べて自社の付加価値額が高い・低い」という単純な比較は参考程度にとどめ、自社の過去実績からの伸び率で評価する方が実態に合う。
また、賃上げ要件がある制度では、給与支給総額の伸びを人件費の伸びと同じ前提で見積もりがちだが、給与支給総額には法定福利費が含まれない一方で人件費には含まれるため、賃上げ率をそのまま両方の伸び率に転用すると数字がずれる。給与支給総額は賃金台帳ベースで、人件費は決算書ベースで、それぞれ別に積み上げるのが安全である。
専門家に相談する前に準備しておくもの
数値計画の作成を税理士や中小企業診断士に依頼・相談する場合、次の資料を事前にそろえておくと打ち合わせが一度で済みやすい。
| 準備する資料 | 用途 |
|---|---|
| 直近2〜3期分の決算書一式(損益計算書・製造原価報告書を含む) | 付加価値額・人件費の基準年数値の算出 |
| 直近の賃金台帳または給与明細の集計表 | 給与支給総額の算出、役員報酬との切り分け |
| 従業員名簿(雇用形態・週所定労働時間が分かるもの) | 従業員数のカウント方法の確認 |
| 補助事業の効果を裏付ける資料(見積書・引き合いメール・生産能力の計算根拠等) | 売上増加見込みの根拠づけ |
| 賃上げ計画がある場合はその計画書・決定事項 | 人件費・給与支給総額の伸び率への反映 |
これらが揃っていないまま打ち合わせに臨むと、その場で概算の数字を作ることになり、後から決算書の実数と食い違って作り直しになりやすい。数値計画は事業計画書の中でも修正の手戻りコストが大きい部分なので、資料をそろえてから着手する方が結果的に早い。
打ち合わせの場では、数字の算出だけでなく「なぜその伸び率になるのか」を口頭で説明できるようにしておくとよい。税理士や診断士は数字の整合性は見てくれるが、事業の中身(どの設備でどれだけ生産能力が増えるか等)は自社にしか分からないため、数字と事業内容の橋渡しは事業担当者自身が担う部分になる。
よくある質問
Q. 減価償却費が少ない会社は付加価値額を増やしにくいですか?
A. 減価償却費は3要素の一つに過ぎません。営業利益や人件費(賃上げ)の伸びでも付加価値額は増加するため、設備投資額の大小だけで有利不利が決まるわけではありません。
Q. 労働生産性は従業員数と労働時間のどちらで割るべきですか?
A. 制度・様式の指定に従います。指定がない場合は一人当たりが一般的ですが、パート比率が高い場合は労働時間ベースの方が実態を反映できます。
Q. 年率平均の伸び率は単純平均でも良いですか?
A. 制度によっては複利(CAGR)での算出を前提とする場合があります。単純平均と複利で数値が変わるため、公募要領の指定方法に従ってください。
Q. 給与支給総額と人件費を混同して集計してしまった場合、何が問題になりますか?
A. 給与支給総額には役員報酬・法定福利費を含めないため、人件費の数字をそのまま流用すると過大な数字になります。賃金台帳ベースで別集計し、決算書の人件費とは切り分けて管理してください。
あわせて読みたい
補助金は締切を過ぎたら翌年まで待つことになります。 締切の見落としを防ぐために、その月に締切を迎える制度だけを絞ってお届けします。登録は無料、いつでも解除できます。
