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「1兆円のバラマキ」と呼ばれた事業再構築補助金――中の鬼が見た光と影

執筆:小嶋 譲司株式会社TOE 代表取締役 読了 約6情報時点:2026年7月
「1兆円のバラマキ」と呼ばれた事業再構築補助金――中の鬼が見た光と影
この記事が扱う制度の公募状況

結論

  • 事業再構築補助金は令和2年度第3次補正だけで1兆1,485億円という桁違いの予算で始まり、補助上限は最大1億円規模。中小企業向け補助金としては前例のないスケールだった(中小企業庁・経済産業省の資料より)。
  • 巨額ゆえに「バラマキ」批判、成功報酬コンサルの乱立、似通った“コピペ計画書”、そして採択後の事業化率や財産管理の甘さが指摘された。会計検査院も改善を求める意見表示を出している。
  • 大型補助金ほど、通ることより「やり切ること」が難しい。丸投げで通しても、後で自分の首を絞める。

1兆円が空から降ってきた

コロナで世の中が止まったあの頃、国が用意した目玉が事業再構築補助金だった。飲食店が製造業に、旅館がワーケーション施設に――「業態をまるごと変えるなら金を出す」という、なかなか大胆なコンセプトである。

規模がとにかく異常だった。初回の令和2年度第3次補正予算だけで1兆1,485億円。その後も補正予算で積み増され、累計では1兆円をゆうに超える規模に膨らんだとされる。補助上限は通常枠でも数千万円、大型の枠なら1億円クラス。中小企業庁が扱う補助金でこの桁は、正直に言って“お祭り”だった(金額は各時点の経済産業省資料による)。

狙い自体はまっとうだ。コロナで需要が蒸発した事業者に、縮小ではなく“作り替え”の原資を渡す。理屈は美しい。問題は、美しい理屈と1兆円が出会うと、だいたい妙なことが起きるということだ。

「バラマキ」と呼ばれた理由

批判の中心は「予算が大きすぎる」だった。採択率を見ると、その空気が伝わってくる。

公募回応募数(通常枠)採択数採択率
第1回22,229件8,015件36.0%
第2回20,800件9,336件44.9%
第5回21,035件9,707件46.1%
第7回15,132件7,745件51.1%
第8回12,591件6,456件51.3%

(出典:スマート補助金の採択率まとめ、数値は公表実績。回によって集計枠が異なる点に注意)

第1回こそ36%と厳しめだったが、その後は5割前後まで上昇した回もある。全8回の累計では応募約14.7万件に対し採択約6.7万件と、規模がそのまま桁違い。「二人に一人が通る補助金で最大1億円」――そう聞けば、そりゃ人も業者も群がる。ここに“バラマキ”という言葉が刺さった背景がある。

もちろん擁護もできる。コロナ禍という非常時に、スピードと規模で事業者を支えたのは事実だ。採択率が高いこと自体は悪ではない。ただ、蛇口を全開にすると、水以外のものも一緒に流れてくる。

コピペ計画書と成功報酬という生態系

巨額の補助金は、必ず“それを取るための産業”を生む。事業再構築補助金では、申請支援コンサルが一気に増えた。中には「採択されたら補助金額の10〜15%を成功報酬で」というモデルもあり、これ自体は合法的なビジネスだ。

ただし副作用が出た。

  • 事業計画書のテンプレ化。同じような構成・同じような言い回しの計画書が量産され、審査側を悩ませたと言われる。
  • 事業者本人が中身を理解しないまま“通す”ことが目的化する。
  • 中には、実体の薄い事業に高額な費用を乗せ、バックを受け取るといった不正の温床も指摘された(不正受給は交付取消・返還の対象になる)。

断っておくと、まっとうに伴走するコンサルは大勢いるし、彼らを一括りに悪者にするのは公平ではない。問題は制度の設計と規模が、“中身より通過”を誘発しやすかったことにある。麻薬の売人が悪いというより、麻薬が強すぎた、という話に近い。

通った後に、現実がやってくる

ここからが中の鬼として一番言いたいところだ。補助金は「採択」がゴールに見えて、実は入口でしかない。

事業再構築補助金には、補助事業完了後を初回として原則5年間・計6回の「事業化状況報告」が課される。売上や付加価値がどう伸びたかを、毎年報告し続ける義務だ(事業再構築補助金 公式の事業化状況報告ページ)。計画どおりに事業化できていなければ、当然その事実は残る。

さらに上には会計検査院がいる。同院は経済産業省の検査で、この事業について「処分制限財産は原則として事業計画書に記載された事業再構築にのみ使用する必要があることを事業者に周知し、使用状況を的確に把握する方策を検討し、事業化状況等報告書の報告方法を見直すよう」意見表示を行っている(会計検査院 決算検査報告)。ざっくり訳すと「配った後の管理がゆるいぞ」というダメ出しである。

  • 補助金で買った設備を、申請と違う用途に使えば処分制限違反になり得る。
  • 事業化が進まず報告が滞れば、調査対象になり得る。
  • 不正・虚偽が認定されれば、返還に加えて加算金や公表というおまけまで付く。

「返済不要」という言葉だけが独り歩きするが、それは“ちゃんとやり切れば”の話だ。

中の鬼の本音:巨額補助金は麻薬に似ている

誤解のないように言う。事業再構築補助金は、多くの事業者を実際に救った。真剣に業態転換をやり切って、いまも回っている会社はたくさんある。制度そのものを否定する気はまったくない。

それでも、この制度は“補助金の依存性”を教科書みたいに見せてくれた。金額がでかいほど、人は「どう使うか」より「どう取るか」に酔う。取ることだけがうまくなり、やり切る筋力がつかない。効きが強い薬ほど、抜けたときの反動もでかい。

大型補助金ほど、通ることより“やり切ること”のほうがずっと難しい。コンサルに丸投げして作った計画書は、審査は通っても、5年間の報告と検査という現実には嘘をつけない。通った瞬間がピークの補助金ほど、後で静かに詰む。

もし今あなたが大型補助金を狙っているなら、聞くべき問いは一つだ。「採択されなくても、この事業をやるか?」――イエスなら筋がいい。ノーなら、それはあなたの事業ではなく、補助金の事業だ。

まとめ

  • 事業再構築補助金は1兆円超の巨額予算・最大1億円規模で、中小企業支援として前例のないスケールだった。
  • その規模ゆえに「バラマキ」批判、コピペ計画書、成功報酬コンサルの乱立という副作用が生まれ、会計検査院からも財産管理・報告方法の改善を求める意見表示が出た。
  • 光も影も事実。要は「通すこと」を目的化した瞬間に、5年間の報告と検査という現実がボディブローで効いてくる。
  • 補助金は入口。やり切る覚悟がある事業に使ってこそ、麻薬ではなく燃料になる。

なぜ計画書が通らないのか、その構造は補助金はなぜ不採択になるで解剖している。そもそも補助金の全体像から知りたい人ははじめての方へからどうぞ。取ることより、やり切ることの話をしよう。

出典

よくある質問

Q. 事業再構築補助金の予算はどのくらい大きかったの?

A. 初回の令和2年度第3次補正予算だけで1兆1,485億円が計上され、その後の補正で積み増され累計は1兆円を大きく超える規模に達したとされます。補助上限は通常枠で数千万円、大型の枠では1億円クラスと、中小企業向け補助金としては前例のないスケールでした(金額は各時点の経済産業省資料による)。

Q. “コピペ計画書”は本当に問題だったの?

A. 申請支援コンサルの増加に伴い、構成や表現が似通った事業計画書が量産され、審査側を悩ませたと指摘されています。まっとうな伴走支援も多い一方、事業者本人が中身を理解しないまま通過だけを目的化するケースが問題視されました。実体の薄い事業に高額費用を乗せる不正は交付取消・返還の対象です。

Q. 採択されれば補助金は返さなくていいの?

A. 原則として返済不要ですが、それは計画どおり事業をやり切った場合の話です。補助事業完了後は原則5年間・計6回の事業化状況報告義務があり、会計検査院も財産の用途や報告方法について改善の意見表示を出しています。目的外使用や虚偽・不正が認定されれば、返還や加算金の対象になり得ます。

この記事で取り上げている制度

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