補助金の
番外編『世界の補助金から』

5億ドルの政府保証を受けた太陽光企業が、2年で倒産した——ソリンドラ事件

執筆:小嶋 譲司株式会社TOE 代表取締役 読了 約9情報時点:2026年8月18日
5億ドルの政府保証を受けた太陽光企業が、2年で倒産した——ソリンドラ事件

結論

  • 米エネルギー省は2009年、オバマ政権の経済刺激策「米国再生・再投資法(ARRA)」の第1号案件として、太陽光企業ソリンドラに5億3,500万ドルの融資保証を付与した。しかし同社は2011年9月1日に破産申請し、融資プログラムは5億2,800万ドルの損失を被った。
  • 倒産の直接原因は、中国の結晶シリコン系太陽電池メーカー(SuntechやYingliなど)が主導した価格競争であり、ソリンドラのCIGS薄膜型円筒パネルはコスト面で対抗できなかった。
  • 融資保証の取得にあたり「不正確な情報でエネルギー省を誤導した」と報じられてFBIが家宅捜索を実施したが、司法省とエネルギー省監察総監による4年間の合同調査(2015年終結)では刑事訴追も政治的腐敗の認定もなされなかった。

CIGS薄膜型円筒パネルという独自路線

クリス・グローネットは2005年5月、カリフォルニア州フリーモントに、後にソリンドラとなる会社を設立しました。同社が選んだ技術は、銅・インジウム・ガリウム・セレン化合物(CIGS)を素材とする薄膜型太陽電池を円筒形パネルに仕上げるというものでした。平板型の結晶シリコン系パネルとは一線を画す独自のアプローチです。

2006年から世界各地でデモンストレーション・システムの展開を開始しました。世界14か所に設置した各システムには、放射量・風速・温度・湿度を計測する精密機器が組み込まれており、エネルギー収量予測ソフトウェアの開発データとして活用されました。同社の発表では、最終的に世界で1,000超のシステムが設置され、合計100メガワット相当の発電量を実現したとされています。

売上高は2009年に1億ドル、2010年には約1億4,000万ドルへと成長しました。当時の推定では、生産と販売のさらなる拡大により、時価総額が17億6,000万ドルから最大20億ドルに達するとも予測されていました。2008年には生産を拡大しており、事業は拡大局面にあったとされています。

主要投資家には、ジョージ・カイザー・ファミリー財団、U.S.ベンチャー・パートナーズ、CMEAベンチャーズ、レッドポイント・ベンチャーズ、ヴァージン・グリーン・ファンド、マドローン・キャピタル・パートナーズ、ロックポート・キャピタル・パートナーズ、アルゴノート・プライベート・エクイティ、マスダール(アブダビ・フューチャー・エナジー・カンパニー)、アーティス・キャピタル・マネジメントが名を連ねており、多様な機関投資家・財団から資金を集めていました。

オバマ政権の「第1号」に選ばれる

2009年、オバマ政権は景気刺激策「米国再生・再投資法(ARRA)」の一環として、エネルギー省の融資保証プログラムを始動させました。その第1号受益者として選ばれたのがソリンドラです。保証額は5億3,500万ドル。連邦政府がクリーン・エネルギー企業に対してこれほどの規模の保証を付与するのは、当時としては異例のことでした。

連邦の融資保証に加え、カリフォルニア州の代替エネルギー・先進輸送融資機構(CAEATFA)からは2,510万ドルの税制優遇措置も受けています。

政権はソリンドラを「持続可能エネルギー分野のリーダー」として公式に称え、クリーン・エネルギー政策の成功例として積極的に広報しました。この段階では、同社は政府のお墨付きを得た将来有望な成長企業として広く認知されていました。

7億3,300万ドルの最新鋭工場と雇用見通し

融資保証を支えに、ソリンドラはフリーモントに最新鋭のロボット工場「Fab 2」を建設しました。総工費は7億3,300万ドル。財源は5億3,500万ドルの連邦融資保証のほか、民間投資家から少なくとも1億9,800万ドルが投じられており、Fab 2は2010年9月に開業しました。

2009年3月時点で同社が示した雇用の見通しは以下のとおりです。

工程見込み雇用数
Fab 2の建設約3,000人
施設の定常運営1,000人超
パネルの設置施工数百人

また、IPO(新規株式公開)の届出資料では、Fab 1とFab 2を合算した年間生産能力を2013年までに610メガワットへ拡大する計画が示されていました。この技術の商業化が実現すれば、さらに複数の製造拠点への展開も視野に入れていたとされています。

中国メーカーの低価格攻勢と競争力の喪失

Fab 2の稼働と前後して、市場環境が急変します。中国のSuntechやYingliに代表される低コスト・大量生産メーカーが結晶シリコン系太陽電池パネルの価格を大幅に引き下げ、競合が一気に激しくなりました。

ソリンドラのCIGS薄膜型円筒パネルは技術的な独自性を持っていましたが、通常の結晶シリコン系太陽電池メーカーとの競争力を維持することができませんでした。

2010年11月3日、同社は約40人の人員削減と、約150人の派遣・契約社員の契約不更新を発表。旧来の第1工場「Fab 1」を休眠状態に置き、稼働したばかりの「Fab 2」の拡張計画を凍結しました。これにより年間生産能力は当初目標の610メガワットから約300メガワットへと縮小されました。縮小の理由として同社は「市場環境」を挙げており、中国の低コスト生産者との激しい競争を明示しています。

経営交代と破産申請

2010年7月27日、インテル出身のベテラン経営者ブライアン・ハリソンが最高経営責任者(CEO)に就任し、2005年の創業以来同職を務めてきた創業者クリス・グローネットと交代しました。

ハリソンのもとで再建が試みられましたが、就任からおよそ1年余りが経過した2011年9月1日、ソリンドラは連邦破産法の適用を申請しました。破産申請時の従業員数は約1,100人でした。

FBI家宅捜索と政治スキャンダルへの発展

破産申請の直後、連邦捜査局(FBI)がソリンドラのオフィスを家宅捜索しました。同社が政府融資保証を取得する際に「不正確な情報を使ってエネルギー省を誤導した」と報じられたことが発端です。政権肝いりの企業が倒産し、さらに情報操作の疑惑が浮上したことで、事件は党派的な政治スキャンダルへと発展しました。

その後、司法省とエネルギー省監察総監が共同で調査を開始。4年間にわたる捜査は2015年に終結しましたが、刑事訴追も政治的腐敗の認定もなされませんでした。

連邦政府の融資プログラムが被った損失は5億2,800万ドルに上ります。政府は当初の再建計画のもとで2,700万ドルの回収を見込んでいたほか、中国の多結晶シリコン太陽電池メーカーに対して不当廉売(プレデトリー・プライシング)を理由に15億ドルの訴訟を提起していました。

独占禁止法訴訟による段階的な回収

中国メーカーに対する訴訟は複数に分かれて和解へと至りました。

相手先和解成立和解金額
Yingli Green Energy Holding Co Ltd.2015年11月750万ドル
Trina Solar Ltd.2016年4月4,500万ドル
Suntech Power Holdings Co Ltd.2016年6月申立、2017年11月30日裁判官承認記載なし

これらの独占禁止法に基づく和解を通じて、競合他社からの不当廉売訴訟で最終的に約5,250万ドルが回収されています。

日本の制度を考えるうえで

本件は、政府が融資保証という形で多額の公的支援を行っても、市場競争環境の急変——この場合は海外低コストメーカーの台頭——に対抗できなければ、技術的優位性だけでは企業を存続させられないことを示しています。補助金や融資保証の設計において、支援先の技術評価だけでなく、国際的な市場リスクの変化をどう組み込むかは、今なお問い直す価値のある問いです。

出典

よくある質問

Q. ソリンドラへの融資保証額と政府の最終損失はいくらですか?

A. 米エネルギー省は2009年に5億3,500万ドルの融資保証を付与しました。2011年の破産により融資プログラムは5億2,800万ドルの損失を被りました。その後、中国メーカーとの独占禁止法訴訟の和解(Yingli 750万ドル、Trina Solar 4,500万ドルなど)を通じて約5,250万ドルが回収されています。

Q. ソリンドラはなぜ倒産したのですか?

A. 中国のSuntech・Yingliなど低コスト・大量生産の結晶シリコン系メーカーが価格を大幅に引き下げたことが直接の原因です。ソリンドラのCIGS薄膜型円筒パネルは技術的に独自でしたが、コスト面で対抗できず、2010年11月には工場拡張の凍結と人員削減を発表し、2011年9月1日に破産申請しました。

Q. ソリンドラはなぜ政治スキャンダルに発展したのですか?

A. 政府融資保証の取得にあたり「不正確な情報でエネルギー省を誤導した」と報じられ、FBIが家宅捜索を実施したためです。ただし司法省とエネルギー省監察総監による4年間の合同調査(2015年終結)では、刑事訴追も政治的腐敗の認定もなされませんでした。

Q. ソリンドラのFab 2工場はいくらで建設されましたか?

A. 最新鋭のロボット工場「Fab 2」の総工費は7億3,300万ドルで、2010年9月に開業しました。財源は5億3,500万ドルの連邦融資保証と民間投資家からの少なくとも1億9,800万ドルです。当初は2013年までに年間610メガワットの生産能力を目指していましたが、実際には約300メガワットにとどまりました。

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