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中の「鬼」が書いたブログ

「誰でも100万円もらえる」——持続化給付金の“不正受給祭り”はなぜ起きたのか

執筆:小嶋 譲司株式会社TOE 代表取締役 読了 約14情報時点:2026年8月3日
「誰でも100万円もらえる」——持続化給付金の“不正受給祭り”はなぜ起きたのか
この記事が扱う制度の公募状況

結論

  • 持続化給付金は、コロナ禍で売上が減った事業者に法人200万円・個人事業主100万円を配った制度で、約424万者に総額およそ5.5兆円が給付された(経済産業省)。
  • スピード最優先で審査を薄くした結果、「事業をしていなくても、嘘の申請で100万円もらえる」と気づいた人が続出し、その手口がSNSやLINEで拡散。学生や会社員だけでなく、給付金を所管する経済産業省のキャリア官僚や国税職員までが手を出す国民的不正事件になった。
  • ただし「バレない」は幻想で、不正受給は給付額に延滞金(年3%)と加算金(2割)を上乗せして返すことになり、100万円が約135万円の「借金」に変わる。氏名・所在地の公表まである。中の鬼が言いたいのは、軽い気持ちの「ちょっと盛る」申請が、正規の補助金でもまったく同じ地獄につながるという一点だ。

中の鬼の前置き

補助金サイトを名乗っておいて、最初の記事がこれかよ——と思われるかもしれません。でも、補助金・助成金・給付金の世界でいちばん多くの人が「自分ごと」として通ったのは、たぶんあの持続化給付金です。あれほど短期間に、日本中が「制度で遊んだ」事件も、もう二度と見られないかもしれません。

制度の明るい面ばかり書くサイトが多いなか、中の鬼はあえて、あの狂騒を振り返っておきたいのです。理由は最後に書きます。

そもそも持続化給付金とは

2020年、コロナで多くの事業者が売上を失いました。国はスピード救済として、前年同月比で売上が50%以上減った月がある事業者に、返済不要の現金を配ります。

項目内容
給付額法人 最大200万円/個人事業主 最大100万円
主な要件前年同月比で売上が50%以上減少した月があること
申請オンライン完結(原則、対面審査なし)
給付実績約424万者に総額 およそ5.5兆円(経済産業省)

ポイントは「返さなくていい」「オンラインで完結」「とにかく速く配る」の三点。困っている人に一日でも早く、という設計思想そのものは正しい。ただ、この「速さ」が想定外の副作用を生みました。

審査の薄さがどこまで徹底していたか

通常の補助金・助成金では、担当者との面談、訪問調査、第三者機関の審査、現場確認などが何重にも重なります。それが持続化給付金では、オンライン申請フォームに書類の画像を添付するだけで手続きが完了しました。書類の確認は目視レベルにとどまり、税務当局とのリアルタイム照合もなかった。数百万件を数週間でさばくには、それしか選択肢がなかったわけです。

「制度設計の失敗」と批判する声もありますが、中の鬼の見方は少し違います。「スピードと精度はトレードオフだ」という認識は最初からあった。問題は、そのトレードオフを知りながら利用した人たちの側にある——というのが中の鬼の立場です。

なぜ「お祭り」になったのか——3つの燃料

燃料1:審査の薄さが「スキ」になった

数百万件を数週間でさばくために、確認は自己申告ベースに寄りました。書類上で売上の減少を「作れる」人にはスキができた、ということです。不正の手口は大きく三つに分類できます。

手口内容
架空の開業届実際には事業をしていないが、開業届だけ提出して個人事業主に「なりすます」
売上の操作50%以上の減少がないのに、帳簿や申告書類を偽造・改ざんする
名義貸し他人の名義・口座を使って申請し、受け取った給付金を分け合う

三つ目の「名義貸し」は、組織犯罪に発展しやすいのが特徴です。「あなたは何もしなくていい。書類だけ用意して」と声をかけられた人が、自分が詐欺に加担していると気づかないまま名義を貸してしまう——という構図が各地で起きました。名義を貸した側、紹介した側も含め、関わった全員が詐欺の共犯として立件され得ます。

燃料2:SNSとLINEで「もらい方」が広まった

「開業届を出して個人事業主ということにすれば、実際に事業をしていなくても100万円もらえる」——こうした手口が、SNSや知人経由のLINEグループで一気に拡散しました。拡散の速度は、行政の対応速度をはるかに上回りました。

指南役が申請を代行し、給付金の一部を報酬として抜く「ビジネス」まで生まれます。栃木県の当時23歳の男は、約300人に報酬を払って申請させ、およそ3億円をだまし取ったとして逮捕されました(2021年1月・報道)。「やり方を教えてもらっただけ」「名前を貸しただけ」は免責理由にならず、お金を受け取った側も名義を貸した側も、全員が詐欺の共犯として立件され得ます。

燃料3:「みんなやってる」で罪悪感が麻痺した

一人がやり、周りがやり、「バレてないらしい」が伝わると、心理的ハードルは一気に下がります。相手が「顔の見える被害者」ではなく「国」だと、人は驚くほど簡単に手を出す。「大企業だって税逃れをしている」「コロナで大変なのに国が助けてくれないのが悪い」——こうした言い訳が行動の敷居を下げ、「みんながやっているから大丈夫」という同調圧力が最後のブレーキを外す。これが、ふだんは真面目な人まで巻き込んだ最大の理由だと中の鬼は見ています。

誰が手を出したのか——顔ぶれがすごい

この事件がただの詐欺で終わらなかったのは、加担した人の「属性」です。

加担したとされる人なぜ話題になったか
経済産業省のキャリア官僚2人給付金を所管する、まさに「身内」(2021年6月逮捕・報道)
東京国税局・税務署の職員税のプロが不正受給に関与
大学生(同志社大・慶應野球部員 など)「簡単に稼げる」に若者が反応
新聞記者・地方公務員・国立印刷局職員「固い職業」ほど話題になった

給付金を配る側・取り締まる側の人間までが手を出した——ここに、この「お祭り」の異常さが凝縮されています。経済産業省の官僚が逮捕された案件では、「制度の抜け穴を最もよく知っている人間が不正をした」という事実に、報道各社が大きくスペースを割きました。「このくらいのことは誰でもやってる」という空気が、霞が関の中にまで侵食していたことの証左です。

主犯はインドネシアへ——一族9.6億円事件

規模で群を抜いたのが、ある一家による組織的犯行です。報道によれば、家族らが36都府県にまたがって他人や事業者の名義を使い、2020年5〜9月に約1,780件・総額およそ9億6,000万円を詐取したとされます。主犯格とされる40代の男は海外(インドネシア)へ逃亡し、警視庁が全国指名手配。もはや「給付金版の逃亡劇」です。

この事件が示すのは、組織犯罪が給付金制度に本格参入したという事実です。「知人から誘われた」レベルの個人の不正ではなく、36都府県に「支店」を持つような規模で組織的に動いた。審査の薄さが、プロの犯罪者にとっても魅力的な条件だったわけです。個人が軽い気持ちで踏み込んだ制度の隙間を、組織が徹底的に利用した——それがこの「お祭り」のもう一つの顔です。

「バレない」は幻想——100万円が135万円の「借金」になる仕組み

ここが、中の鬼がいちばん伝えたいところ。不正受給が認定されると、返すのは「もらった額」だけでは済みません。経済産業省が示した扱いはこうです。

返すもの内容
給付金の全額受け取った100万円(法人なら200万円)
延滞金不正受給の翌日から返還日まで 年3%
加算金上記合計額の2割

ざっくり、100万円もらった人は約135万円を返す計算になります。督促までに全額を納めなければ、氏名・所在地が公表される。中小企業庁は持続化給付金だけで2,568者・総額およそ26億円を不正受給として認定・公表しています(人数・金額は公表資料の時点による)。「もらい得」どころか、額を増やして返し、名前まで晒される。割に合わない、では済みません。

なぜ「バレない」は成り立たないのか——摘発の仕組み

制度終了後、国税庁と経済産業省が連携して給付記録と確定申告データを突合しました。「事業をしていない人が事業収入を申告している」「売上の推移が申告と矛盾している」という矛盾は、データ照合によって機械的に炙り出されます。

当初の申請時に「後日、税務調査等で確認する可能性がある」旨が明記されていました。不正をした人は最初から「いつか来る」とわかっていたはずです。それでも手を出したのは、「まさか自分には来ない」という根拠のない楽観と、100万円という即時の魅力が、長期的なリスクの見積もりを狂わせたからでしょう。

「摘発されるまでの時間差」が罠になる

不正から摘発まで、数か月から1年以上かかることもあります。この時間差が「バレてないから大丈夫」という誤解を生みます。しかし時間が経つほど延滞金が積み上がります。年3%の延滞金は2年経てば6%分の上乗せ。元々の100万円が、放置するほど膨らみ続けます。「返したいが返せない」という状況になった人からの相談が、弁護士事務所や税理士事務所に多数寄せられたのも、この制度の後日談です。

自主返還という選択肢——やってしまった人が最初にすべきこと

不正受給をしてしまった、あるいは不正になる可能性があることに気づいた場合、経済産業省は「自主返還」の窓口を設けていました。自主返還の場合、加算金(2割)が免除される扱いがありました(返還時期・条件による)。

状況返還内容
自主返還(要件を満たす場合)給付額の全額+延滞金(加算金が免除される場合あり)
摘発後の返還給付額の全額+延滞金+加算金(2割)+氏名公表のリスク

摘発される前に自分から申し出た場合と、発覚した後では、返還総額に大きな差が出ます。「もらってしまったが不安だ」という状態は、早く動くほどダメージが小さくなる。これは補助金全般に共通する原則です。判断が遅れるほど延滞金が積み上がり、選べる手段が狭まっていきます。

中の鬼の結論:これは「他人事」ではない

なぜ補助金サイトがこの話をするのか。答えはシンプルで、「ちょっと盛る」が命取りになる構造は、正規の補助金・助成金でもまったく同じだからです。

補助金申請の現場で「ちょっと盛る」が起きやすい場面を具体的に挙げます。

よくある「盛り方」何が問題か
売上や経費の数字を実態より有利に調整する書類と実態の不一致は、交付後の実地調査で発覚する
やっていない事業・未確定の計画を「確定した計画」として書く事業計画と実績の乖離は、完了報告・完了検査で問われる
見積書の金額を補助率に合わせて逆算して作る不自然な金額設定は審査員に気づかれ、不採択または後日調査になる
要件を満たすために形だけ組織変更や雇用を行う実態が伴わない場合、不正受給として返還請求の対象になる

これらは「嘘をついた」という自覚がないままやってしまいがちです。「多少のズレは仕方ない」「こう書かないと通らない」という感覚で、ふつうの事業者が踏み込んでしまう。持続化給付金の不正受給と、正規の補助金での「盛り」は、法的性質としては地続きです。不正受給として認定されれば、全額返還+加算金+氏名公表のリスクは同じです。

正しくもらえれば、これほど確実な資金調達はない

逆に言えば、要件を正しく満たし、事実を正しく書けば、補助金は返済不要の資金として堂々と受け取れる制度です。ものづくり補助金の直近5回平均採択率は34.6%(2026年7月時点・公式ポータル集計)。3件に1件は通っている計算です。審査員は何千件もの申請書を読んでいます。「盛った申請」と「事実ベースの申請」の差は、思っているより早く見抜かれます。誇張せずに、事実を丁寧に積み上げた申請書が通る——これが中の鬼が見てきた現実です。

中の鬼がこのサイトでやりたいのは、その「正しいもらい方」を面白く伝えることです。持続化給付金の狂騒は、その反面教師として最高の教材でした。

まとめ

  • 持続化給付金は約424万者に総額およそ5.5兆円を配った巨大制度。スピード優先の設計が、不正の温床にもなった。
  • 「嘘でももらえる」がSNSで拡散し、官僚・国税職員・大学生までが加担する社会現象に。一族による9.6億円詐取・主犯格の海外逃亡劇まで起きた。
  • 不正受給は給付額+延滞金(年3%)+加算金(2割)で返還し、氏名公表まである。100万円が約135万円の「借金」に変わる。放置するほど膨らむ。
  • 自主返還は発覚前ほど有利。加算金が免除される場合があり、早い行動がダメージを最小化する。
  • 「ちょっと盛る」は正規の補助金でも同じくアウト。事実を正しく書いて堂々と通すのが、いちばん得で、いちばん安全。

補助金で「盛らずに、それでも通す」書き方は 補助金の不備を防ぐ提出前チェックリスト補助金はなぜ不採択になる? にまとめています。制度そのものを探すなら はじめての方へ からどうぞ。

出典(本文中の数字)

  • 経済産業省「持続化給付金」制度概要・給付実績
  • 経済産業省「不正受給及び自主返還について」(返還・延滞金・加算金の扱い)
  • 中小企業庁「持続化給付金の不正受給者の認定及び公表について」
  • ものづくり補助金採択率:公式ポータル(https://portal.monodukuri-hojo.jp/saitaku.html)2026年7月19日取得
  • 各逮捕事案は当時の報道による

よくある質問

Q. 持続化給付金の不正受給はなぜこれほど広まったのか?

A. 「返済不要・オンライン完結・審査が薄い」という三拍子が揃い、架空の開業届や売上操作・名義貸しという手口がSNSやLINEでノウハウのように拡散したため。行政の対応速度より拡散の速度が圧倒的に速かったことが被害を広げた。

Q. 不正受給が発覚するとどうなるのか?

A. 給付金の全額に加え、不正受給の翌日から年3%の延滞金と、合計額の2割の加算金を上乗せして返還しなければならない。100万円受給なら約135万円の返還になる計算で、督促に応じない場合は氏名・所在地も公表される。

Q. 補助金申請で数字を少し有利に見せるのはどこまで許されるのか?

A. 実態と異なる数字を書く行為は、程度にかかわらず不正受給のリスクがある。書類と実態の不一致は交付後の実地調査で発覚し、全額返還+加算金の対象になり得る。「多少のズレは仕方ない」という感覚が最も危険で、事実のみを書くことが原則になる。

Q. 自主返還すると摘発後と比べて何が変わるのか?

A. 持続化給付金では、自主返還の場合に加算金(2割)が免除される扱いがあった(時期・条件による)。摘発後では加算金が上乗せされ氏名公表リスクも生じる。「不安だ」と感じた時点で早めに動くほど返還総額は少なくなり、選べる手段も広い。

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