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番外編『世界の補助金から』

太陽光を増やしたら電気代が跳ねた国――ドイツの再エネ賦課金EEGはなぜ廃止されたか

執筆:小嶋 譲司株式会社TOE 代表取締役 読了 約17情報時点:2026年8月9日
太陽光を増やしたら電気代が跳ねた国――ドイツの再エネ賦課金EEGはなぜ廃止されたか

結論

  • ドイツは固定価格買取制度(FIT)で太陽光・風力を世界屈指の規模まで育てたが、買取の原資を家庭の電気代に上乗せする再エネ賦課金(EEG-Umlage)が2000年の導入時から膨らみ続け、家庭用電気料金は欧州でも最高水準に達した。
  • 賦課金は2017年に1kWhあたり約6.88ユーロセント(当時のレートで約11〜12円)のピークをつけ、ついに2022年7月に廃止。買取の原資は電気代への上乗せから、排出量取引収入などを含む連邦予算(税財源)へ移された。
  • 日本の再エネ賦課金は2026年度で1kWhあたり4.18円と過去最高を更新中。ドイツの「再エネは増えたが電気代は跳ねた」という光と影は、これから日本が直面する道の先行事例といえる。

掴み:太陽光を増やしたら、電気代が跳ねた国

ドイツは「エネルギー転換(Energiewende)」の旗を掲げ、原発と化石燃料から再生可能エネルギーへ舵を切った国だ。その主役が固定価格買取制度(FIT)である。太陽光や風力でつくった電気を、市場価格より高い固定価格で長期間買い取る。事業者にとっては「つくれば必ず高く売れる」仕組みだから、太陽光パネルも風車もみるみる増えた。

ところがこの「高く買い取る」お金は、どこかから湧いてくるわけではない。電力取引所で形成される市場価格と、FITで保証された固定価格との差額は、電力会社が家庭や企業の電気代に上乗せして回収する仕組みになっていた。これがEEG賦課金(EEG-Umlage)の正体だ。

再エネが増えるほど買取の総額は膨らみ、賦課金も上がっていく。「再エネの成功」がそのまま「電気代の上昇」となって国民に跳ね返る構造——これがドイツが20年かけて到達した、光と影の両面だった。

FIT(固定価格買取制度)の仕組みとコストの流れ

EEG賦課金を理解するには、まずFITのお金の流れを押さえる必要がある。

  1. 発電事業者がFIT価格で電気を売る。 太陽光であれば、20年間にわたって固定価格が保証される。導入初期は1kWhあたり数十ユーロセントという水準で、電力市場の卸価格(当時で数ユーロセント程度)をはるかに上回っていた。

  2. 電力会社が差額を一時的に立て替える。 電力会社はFIT価格で買い取った電気を電力取引所で市場価格で売る。その際に生じる「FIT価格-市場価格」の差額が赤字になる。

  3. 赤字を賦課金として回収する。 この赤字分を電気を使うすべての家庭・企業に按分して上乗せするのがEEG賦課金だ。消費量が多いほど負担が増える仕組みなので、月の電気使用量が多い家庭ほど痛い。

  4. 産業界は大規模に減免される。 ここが重要なポイントだ。国際競争力の維持を名目に、大量に電気を使う製造業(製鉄、化学、アルミなど)はEEG賦課金の全額または大部分が免除されていた。その分の穴埋めは、免除されない家庭と中小企業に転嫁された。賦課金が「産業には優しく、家庭には重い」非対称な構造を生んでいたのは、この減免制度が一因だった。

EEG賦課金は20年でどこまで上がったか

EEGとともに2000年に導入された賦課金は、当初1kWhあたり0.2ユーロセントにも満たなかった。それが右肩上がりで上昇し、2017年には約6.88ユーロセントに達した。20年強で実に30倍以上の膨張だ。

EEG賦課金(ユーロセント/kWh)概算の円換算(参考)
2000年(導入時)約0.21円未満
2013年約5.28約9円
2017年(ピーク)約6.88約11〜12円
2021年約6.5約11円
2022年1月約3.72(半減)約6円
2022年7月0(廃止)0円

(円換算は1ユーロ=約170円で機械的に換算した参考値。実際の為替は年により大きく異なるため、規模感を掴むための目安にとどめてほしい。)

4人家族の標準的な家庭で見ると、ピーク時の賦課金だけで年間数百ユーロ(数万円規模)の負担になった。電気代の「明細」を見ると、電気そのものの調達コストより税・賦課金の合計が上回る年まで出てきた。ドイツ市民の間では「電力税(Stromsteuer)」「送電網利用料(Netzentgelte)」「EEG賦課金」が三重に重なって電気代を押し上げる構造が「賦課金の連鎖」として批判を浴びた。

なぜ市場価格が下がると賦課金は上がるのか

直感に反するが、電力市場の価格が下がるとEEG賦課金は逆に上がる傾向があった。仕組みを理解すると腑に落ちる。

賦課金の計算ベースは「FIT固定価格-電力市場価格」の差額だ。再エネが大量に電力市場に流れ込むと、需給バランスが崩れて市場価格が下落する。市場価格が下がれば「差額」は広がるから、賦課金の算定根拠となる金額も増える。

つまり再エネが増えれば増えるほど「電力市場の価格が下がる→固定価格との差額が広がる→EEG賦課金が上がる」という連鎖が起きやすかった。「再エネを増やしたのに電気代が上がる」という逆説の一因がここにある。「普及量×固定価格」の総額が膨らむことに加え、市場価格の低下が差額をさらに広げるというダブルの圧力が賦課金を押し上げた。

欧州最高水準になった家庭用電気料金

賦課金の膨張は電気代全体を押し上げた。2021年前半、ドイツの家庭用電気料金は1kWhあたり約32ユーロセント(概算で約54円)と、欧州でも最も高い水準に達した。日本の家庭用電気料金がおおむね1kWhあたり30円前後であることを踏まえると、その高さがわかる。

ドイツの電気代が高い理由はEEG賦課金だけではない。送電網の利用料(Netzentgelte)、電力税(Stromsteuer)、付加価値税(VAT)なども重く乗っている。ただ、税・賦課金の合計で見てもドイツは欧州で最も高い部類に入り、そのうちEEG賦課金は2017年のピーク時に電気代の2割強を占めていた。

光の側面も公平に見ておきたい。ドイツはこの制度で再エネの導入量を飛躍的に伸ばし、太陽光パネルや風車の量産による世界的なコスト低下にも貢献した。2000年代初頭に1kWhあたり数十ユーロセントだった太陽光の発電コストは、ドイツをはじめとした大量導入市場の形成によって2020年代には劇的に低下した。EEG賦課金は「未来の安い再エネ」への先行投資でもあった。問題は、そのコストを丸ごと電気代に乗せた結果、家庭・中小企業という「逃げられない需要家」に負担が集中した点にある。

なぜ2022年に賦課金を「廃止」したのか

EEG賦課金は2022年に大きく方針転換された。2022年1月にまず約3.72ユーロセントへほぼ半減し、同年7月1日にゼロへ引き下げられ、法的にも廃止された。

重要なのは「再エネ支援そのものをやめた」わけではないことだ。買取の原資を、電気代への上乗せから連邦予算(税財源)へ移し替えたのである。財源にはCO2排出量取引による収入などが充てられ、「気候・変革基金(Klima- und Transformationsfonds)」を通じて再エネへの支援が続けられる形に移行した。

この転換には主に二つの狙いがあった。

①家庭への直接的な負担軽減。 ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー価格が高騰し、電気代の上昇が社会問題になっていた。賦課金の廃止により、4人家族で年間およそ300ユーロ(概算で約5万円)の負担軽減効果が見込まれた。賦課金をそのまま残せば、エネルギー価格高騰との「ダブル打撃」になりかねなかった。

②逆進性の是正。 EEG賦課金は「電気を使う量に比例して負担する」仕組みだったため、省エネ家庭ほど賦課金も軽く、多く使う家庭ほど重くなる。また産業界への大規模な減免が存在し、免除されない中小企業・家庭が多くを肩代わりする構造になっていた。賦課金を廃止して税財源に移すことで、「電気を使う人が再エネを支援する」という逆進的な構造を、「排出する人がCOコストを払う」という排出量取引ベースの合理的な構造へ転換する意図があった。

廃止後も残る課題——電気代は下がりきらなかった

賦課金が廃止されても、ドイツの電気代が一気に安くなったわけではない。廃止の効果は確かにあったが、2022年はロシア産ガス供給不安によるエネルギー価格高騰が電力市場の卸価格を同時に押し上げており、賦課金分の減少を相殺・超過する形で電気代は高止まりした。

また、税財源に移したことで「コストが見えにくくなった」という批判もある。電気代の明細に「EEG賦課金◯円」という形では表れなくなった再エネコストは国の予算全体に紛れ込み、自分が払っているという当事者意識を持ちにくくなった面もある。財政の透明性という観点からは一長一短の政策転換だった。

さらに、EEG賦課金で2000年代〜2010年代に高い固定価格で結ばれた「既発の契約」は、廃止後も20年間の買取期間が満了するまで支払いが続く。廃止後の財源が税であれ賦課金であれ、過去の契約による支払い義務は消えない。「廃止=コストゼロ」ではなく、あくまで「国民への請求の仕方を変えた」という点を見落とすと、政策の意味を誤解する。

日本のFIT・再エネ賦課金と対比する

日本も2012年にFITを導入し、同様に「再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)」を電気代に上乗せしてきた。仕組みはドイツとよく似ているが、いくつかの相違点もある。

日本の賦課金の推移

年度日本の再エネ賦課金(円/kWh)
2012年度(導入初年度)0.22
2016年度2.25
2020年度2.98
2024年度3.49
2025年度3.98
2026年度4.18

2012年度の0.22円から2026年度の4.18円まで、約14年で19倍近くに膨らんでいる。月400kWhを使う家庭では、2026年度の賦課金だけで月額1,672円、年額約2万円の負担になる計算だ。

日本とドイツの構造比較

比較軸ドイツ(EEG-Umlage)日本(再エネ賦課金)
導入年2000年2012年
直近ピーク値約6.88ユーロセント/kWh(2017年)4.18円/kWh(2026年度)
産業界の減免大規模な減免制度あり(後に問題視)特定規模以上の製造業等に軽減措置あり
廃止・転換2022年7月に廃止、税財源へ移行廃止予定なし(継続中)
主な財源移行先CO2排出量取引収入+連邦予算現行制度では変更なし

ドイツのピーク(概算11〜12円)と比べると、日本の4.18円はまだ半分以下だ。しかし問題は「絶対額」よりも「伸び率」と「構造」にある。14年で19倍という伸び率は、ドイツが「危なくなってきた」と感じ始めた2013年ごろの水準を日本が今まさに通過中だと見ることもできる。

FIPへの移行で何が変わるか

日本でも、賦課金の膨らみを受けてFIT(固定価格買取)からFIP(市場連動型プレミアム)への段階的な移行が進んでいる。FIPでは市場価格の変動を事業者も一部負担するため、卸価格が高いときはプレミアムが小さくなり、賦課金の膨らみを抑える効果が期待される。

ただしFIPへの移行は大規模案件が中心で、既存のFIT契約による買取義務は今後10〜20年にわたって継続する。賦課金の水準が急落する見通しはなく、2026年度の4.18円が当面の水準として続く可能性が高い。

まとめ:教訓として何を読み取るか

ドイツのEEG賦課金が示した教訓は「再エネを増やすと電気代が上がる」という単純な話ではない。より本質的な問いは、「再エネ普及のコストを誰がどう負担するか」という設計の問題だ。

  • 電気使用量に比例する賦課金は、電気なしでは生活できない低所得層に重くのしかかる逆進的な構造を持つ。
  • 産業界への大規模な減免は雇用保護の観点からは理解できるが、その分の穴埋めを家庭が担う非対称性は、長期的に政治的・社会的な反発を招く。
  • 固定価格が高かった時代の契約は、賦課金を「廃止」「転換」しても20年間消えない。過去の政策決定が未来の負担を長期間拘束する。

ドイツが辿り着いた「電気代から税財源へ」という結論が日本にとって正解かどうかはわからない。しかし「賦課金を電気代に上乗せし続ければ自動的に解決する」という楽観は、ドイツの経験が否定している。再エネをどう増やし、そのコストを誰がどんな仕組みで負担するかという制度の設計思想そのものが問われている。

日本のFITや再エネ賦課金の基本を押さえたい方は、まずはじめての方へから制度の全体像を確認してほしい。

出典

よくある質問

Q. EEG賦課金は廃止されたのに、なぜドイツの再エネ支援は続くのか?

A. 廃止されたのは「電気代への上乗せ」という徴収方法であり、再エネへの買取支援そのものは継続しています。原資がCO2排出量取引収入などを含む連邦予算(税財源)に切り替わったため、国民は電気代ではなく税という形で間接的に支援を続けています。「廃止=支援終了」ではなく「請求ルートの変更」です。

Q. 日本の再エネ賦課金はいつごろ廃止・引き下げの見通しが立つか?

A. 現時点では廃止予定はありません。FITからFIPへの段階的な移行が進んでいますが、既存のFIT契約による買取義務は今後10〜20年続きます。2026年度で4.18円/kWhと過去最高を更新中であり、近い将来の大幅な低下は見込みにくい状況です。ドイツも廃止まで22年かかった点は参考になります。

Q. ドイツで産業界が大幅に減免されていたのはなぜ問題だったか?

A. 鉄鋼・化学・アルミなど大量に電気を使う産業は国際競争力維持を名目にEEG賦課金の大部分が免除されていました。その免除分の穴埋めは減免されない家庭や中小企業に転嫁され、「産業には優しく家庭には重い」逆進的な構造が長期間続きました。同様の軽減措置は日本にも存在しており、設計の公平性は共通の課題といえます。

Q. 再エネが増えると市場価格が下がり、なぜ逆に賦課金が増えるのか?

A. EEG賦課金は「FIT固定価格-電力市場価格」の差額を需要家に按分する仕組みです。再エネが大量に市場へ流れ込むと需給が緩んで市場価格が下落し、固定価格との差額がさらに広がります。つまり再エネが増えるほど差額が拡大し賦課金が上昇するという逆説的な構造があり、ドイツのEEG賦課金膨張の主要因の一つでした。

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