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賃上げに使える補助金・税制まとめ

執筆:小嶋 譲司株式会社TOE 代表取締役 読了 約11情報時点:2026年7月20日
賃上げに使える補助金・税制まとめ
本文より新しい公募状況があります

本文は2026年7月20日の情報です。その後に状況が変わった制度があります。申請の可否は下の表で判断してください。

結論

賃上げを検討する事業者が使える公的支援は、大きく3種類に整理できます。最低賃金の引き上げと設備投資費用をセットで支援する業務改善助成金、給与総額の増加分を法人税・所得税から控除する賃上げ促進税制、そして各種補助金の審査で賃上げ計画が評価される「賃上げ加点」です。赤字企業でも使えるのは業務改善助成金、黒字で納税額がある企業は賃上げ促進税制が有力、という違いを押さえておくと選びやすくなります。以下では制度の使い方だけでなく、実務担当者が実際に手を動かす順番、よくあるつまずき、複数制度を時系列でどう組み合わせるかまで具体的に整理します。

賃上げを支援する制度は3系統

性質の異なる3系統に分けられます。「助成金(現金支給)」「税制(税額控除)」「補助金の加点(採択率・上限額への影響)」で、それぞれ受けられるタイミングも対象も異なります。助成金は賃金引き上げと設備投資を実施した後に現金が支給される仕組み、税制は決算・確定申告のタイミングで税額が軽減される仕組み、加点は補助金という別の資金調達に賃上げの実施・計画を紐づけて有利に働かせる仕組みです。この3つは排他的ではなく、要件を満たせば同時並行で活用できる点も押さえておく必要があります。

比較表

制度名性質対象要件向いているケース
業務改善助成金助成金(現金支給)事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる赤字・小規模で、引き上げの原資と設備投資費用を確保したい
賃上げ促進税制税制(税額控除)前年度より給与等支給総額を一定率以上増加黒字で法人税・所得税を納めており、税負担を軽減したい
補助金の賃上げ加点審査上の加点・上限増額補助事業計画で賃上げの実施を表明・実施もともと補助金への応募を予定しており採択率・上限額を上げたい

それぞれの制度の特徴

業務改善助成金

事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げることを条件に、生産性向上のための設備投資費用を助成します。引き上げ額と対象労働者数の組み合わせで助成上限額が決まり、引き上げ前の賃金水準が低いほど助成率が高くなる仕組みです。令和8年度は2026年9月1日から公募開始予定(受付終了日は公募要領未公表)で、上限額は最大600万円、補助率はコースや事業場内最低賃金の水準により3/4〜4/5の範囲で変動します。赤字企業でも申請でき、最低賃金引き上げの負担が重い小規模事業者にとって使いやすい制度です。

賃上げ促進税制

前年度と比べて給与等支給総額を一定率以上増加させた場合に、その増加額の一部を法人税額(個人事業主は所得税額)から控除できる制度です。中小企業向けは基本控除率に加えて、教育訓練費の増加などの上乗せ要件を満たすことで控除率が積み上がる設計です。控除しきれなかった金額を繰り越せる仕組みもありますが、そもそも法人税・所得税を納めていない赤字の事業者にはメリットが生じにくい制度です。適用の可否は決算・申告のタイミングでしか確定しないため、期中から給与総額の見込みを試算しておくことが重要です。

補助金の賃上げ加点

多くの補助金では、賃上げの実施・計画が上限額の増額や審査上の加点に直結する設計が組み込まれています。例えば[新事業進出・ものづくり補助金](/subsidies/shinjigyo-monodukuri)の2026年8月31日〜9月30日受付予定の第1回公募では、革新的新製品・サービス枠の通常上限が2,500万円のところ、賃上げ特例を満たすと3,500万円まで引き上げられます。同様に、2026年7月1日〜7月31日受付の省力化投資補助金(一般型第7回公募)でも、カタログ型は賃上げ時に上限500万〜1,500万円・補助率2/3が適用され、通常より有利な条件になります。2026年6月19日〜7月24日受付の事業承継・M&A補助金(15次公募)でも、事業承継促進枠は通常800万円のところ賃上げ時は1,000万円に増額される設計です。直接お金がもらえる制度ではありませんが、応募を検討している補助金がある場合は賃上げ計画を盛り込むことで、上限額の増額や採択の可能性向上につながる場合があります。

業務改善助成金:申請までの実務手順

  1. 現状把握(申請前1〜2ヶ月):総務・経理担当が賃金台帳を確認し、事業場内で最も低い賃金と最低賃金との差額を把握する。
  2. 引き上げ額と対象人数の決定:どのコース・引き上げ額区分に該当するかを、対象労働者数とあわせて確定する。
  3. 設備投資計画の立案:助成対象となる設備(POSレジ、機械設備など)を選定し、生産性向上にどうつながるかを説明できる形にする。
  4. 申請書類の準備:事業実施計画書、賃金引き上げ計画、見積書などを揃えて労働局・労働基準監督署に申請する。
  5. 交付決定後に賃金引き上げと設備導入を実施交付決定前に設備を発注・支払いすると対象外になるため、順序を間違えないことが重要。
  6. 実績報告:引き上げ後の賃金台帳、設備の納品・支払い証憑を揃えて実績報告を行い、助成金の支給を受ける。

賃上げ促進税制:適用までの実務手順

  1. 前年度・当年度の給与総額を比較:継続雇用者に対する給与等支給総額を、前年度分と当年度分で集計する。
  2. 顧問税理士との事前確認:増加率が控除の要件を満たすか、決算の数ヶ月前の時点で試算しておく。
  3. 上乗せ要件の確認:教育訓練費の増加など、控除率を積み増せる上乗せ要件に該当する取り組みがあるかを棚卸しする。
  4. 確定申告時に別表を添付:法人税・所得税の確定申告にあわせて必要な明細書を添付し、控除を適用する。
  5. 控除しきれない金額の繰り越し確認:単年度で控除しきれない場合は、繰り越しの可否を税理士と確認する。

補助金の賃上げ加点:実務手順

  1. 応募検討時に賃上げ計画を組み込む:事業計画を作成する段階で、補助事業と賃上げの関連性を説明できるようにしておく。
  2. 加点に必要な書類を準備:賃金台帳や賃上げ計画の表明書など、公募要領で指定された様式を用意する。
  3. 採択後の実施状況を管理:交付決定後は計画どおりに賃上げを実施できているか、決算期ごとに進捗を確認する。
  4. 未達成時のリスクを事前に共有:賃上げ計画が未達成の場合、加点分の返還や減額が求められる制度もあるため、経営層にリスクを事前に説明しておく。

ありがちな失敗と回避策

失敗例原因回避策
業務改善助成金の交付決定前に設備を発注してしまい対象外になった助成金は「交付決定後の支出」が原則という理解不足発注・契約・支払いは交付決定通知を受け取ってから行う
賃上げ促進税制の要件を満たしたつもりが、対象となる給与の範囲を誤って計算していた継続雇用者や役員給与の扱いなど、集計対象の線引きを誤解していた税理士に集計範囲を事前確認し、申告直前ではなく期中に試算する
補助金の賃上げ加点を狙って計画書に高い賃上げ目標を書いたが、実施できず返還対象になった加点欲しさに実現可能性の低い数値を設定した経営計画として無理なく続けられる水準で数値を設定する
複数制度を同時に検討したが、どれも中途半端な準備で申請時期に間に合わなかった制度ごとに準備物・申請先・スケジュールが異なることを把握していなかった制度ごとに担当者と準備物を一覧化し、逆算スケジュールを組む

判断に迷う場面での基準

  • 赤字・小規模で最低賃金引き上げの負担が重い業務改善助成金
  • 黒字で法人税・所得税をしっかり納めている賃上げ促進税制を税理士と相談
  • もともと設備投資等で補助金への応募を予定 → 事業計画に賃上げ要素を盛り込み加点や上限増額を狙う
  • 応募を検討している補助金の採択倍率が高い:ものづくり補助金は直近5回(第19次〜第22次)の平均採択率が34.6%(2026年7月19日時点の公表値集計)で、全22回平均の47.5%より低い水準です。競争が激しい局面ほど、賃上げ計画を含めた加点要素で差をつける意味が大きくなります。
  • 複数の要件を満たせる → 業務改善助成金で設備投資を行い、翌年度の賃上げ促進税制にもつなげる時系列での組み合わせも有効

状況別のモデルケース

  • 赤字・小規模の飲食店(従業員5名):法人税・所得税の納税額がほぼないため賃上げ促進税制の恩恵は薄い。事業場内最低賃金を引き上げつつPOSレジや調理機器を導入する計画であれば、業務改善助成金が第一候補になる。令和8年度は2026年9月1日公募開始予定なので、それまでに賃金台帳の整理と設備の見積取得を済ませておく。
  • 黒字・中堅の製造業(従業員80名):法人税をしっかり納めており、前年度より給与総額を増やす方針であれば賃上げ促進税制の控除効果が大きい。あわせて新事業進出・ものづくり補助金の応募も検討している場合は、賃上げ特例(革新的新製品・サービス枠で上限2,500万円が3,500万円に増額)を狙って事業計画に賃上げ計画を明記しておく。
  • 補助金の応募を毎年行っている企業:ものづくり補助金は直近5回平均の採択率が34.6%(2026年7月19日時点集計)と競争が激しいため、賃上げ加点だけに頼らず、事業計画全体の完成度を高めたうえで賃上げ計画を補強材料として位置づけるのが現実的。

制度ごとの相談窓口の考え方

  • 業務改善助成金:管轄の都道府県労働局・労働基準監督署が窓口。設備投資の見積もりは導入予定の業者から早めに取得しておくと申請書類の作成がスムーズになる。
  • 賃上げ促進税制:顧問税理士が窓口。給与総額の集計対象(継続雇用者の範囲、役員給与の扱いなど)は制度上の定義があるため、自己判断せず必ず専門家に確認する。
  • 補助金の賃上げ加点:各補助金の事務局(公募要領に記載の問い合わせ先)に加点の詳細要件を確認する。商工会・商工会議所や認定支援機関に事業計画の相談をあわせて行うと、加点狙いの数値設定が実態と乖離しにくくなる。

複数制度の組み合わせ方(時系列モデル)

1つの企業が3系統すべてを同時に使う必要はありませんが、時期をずらして組み合わせることで無理なく活用できます。

  • 2026年前半:省力化投資補助金(一般型第7回、2026年7月1日〜7月31日受付)やIT導入補助金(2026年3月30日〜7月21日受付)で設備・システム投資を行い、賃上げ特例の対象となる投資を実施する。
  • 2026年後半:業務改善助成金(令和8年度、2026年9月1日公募開始予定)で最低賃金の引き上げと関連設備投資費用の助成を受ける。
  • 決算期:当年度の給与総額の増加が要件を満たしていれば、賃上げ促進税制で法人税・所得税の控除を申告する。
  • 並行して:新事業進出・ものづくり補助金(第1回公募、2026年8月31日〜9月30日受付予定)や持続化補助金(第20回、2026年11月5日〜12月15日受付予定)など応募予定の補助金があれば、賃上げ計画を事業計画に組み込み加点・上限増額を狙う。

このように「設備投資→賃上げ実施→助成金・加点の申請→決算での税制適用」という流れを1年のサイクルとして設計すると、単発の制度活用よりも負担が平準化されます。

制度活用前のチェックリスト

  • 自社が赤字か黒字か、法人税・所得税の納税状況を確認したか
  • 事業場内最低賃金と地域の最低賃金との差額を把握しているか
  • 前年度と当年度の給与等支給総額の見込みを試算したか
  • 応募予定の補助金に賃上げ特例・賃上げ加点の項目があるか公募要領で確認したか
  • 交付決定前に設備を発注・契約していないか
  • 賃上げ計画の数値が無理なく達成できる水準になっているか
  • 税理士・社会保険労務士など、制度ごとの専門家に事前相談したか

まとめ

賃上げに使える公的支援は、現金支給の業務改善助成金、税額控除の賃上げ促進税制、審査上の加点や上限増額につながる補助金の賃上げ加点という3系統に分かれます。自社が赤字か黒字か、もともと補助金への応募を予定しているかによって優先順位は変わりますが、いずれの制度も「交付決定前に動いてしまう」「無理な数値目標を設定する」といった同じような落とし穴があります。手順とスケジュールを逆算し、必要であれば複数制度を時系列で組み合わせることで、賃上げにかかる負担を分散させながら制度を最大限活用できます。

よくある質問

Q. 業務改善助成金と賃上げ促進税制はどちらを先に検討すべきですか?

A. 自社が赤字か黒字かで判断します。赤字で法人税・所得税をほとんど納めていない場合は税額控除の恩恵が薄いため、現金支給の業務改善助成金が先に検討すべき候補です。黒字で納税額がある場合は賃上げ促進税制の控除効果が大きくなるため、税理士に相談しながら試算するとよいでしょう。

Q. 業務改善助成金の申請でもっとも注意すべき落とし穴は何ですか?

A. 業務改善助成金は交付決定前に設備を発注・契約・支払いすると対象外になります。申請書類の提出から交付決定通知を受け取るまでは発注・契約・支払いを一切行わず、通知を受け取った後に設備導入と賃金引き上げを実施する順番を必ず守ることが重要なポイントです。

Q. 賃上げ促進税制の適用でよくある計算ミスは何ですか?

A. 継続雇用者に対する給与等支給総額の集計対象を誤解しているケースが多く見られます。役員給与の扱いなど線引きが複雑なため、決算直前に慌てて計算するのではなく、期中の早い段階から顧問税理士に集計範囲を確認しておくことが失敗を防ぐ確実な方法になります。

Q. 補助金の賃上げ加点を狙うときに気をつけることは何ですか?

A. 賃上げ計画が未達成の場合、加点分の返還や減額が求められる補助金制度があるためです。加点を得たいあまり実現可能性の低い数値目標を計画書に書いてしまうと、達成できず返還リスクを抱えることになるため、無理のない水準で数値を設定する必要があります。

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